心理学コミュニケーターの都竹悦子さん[vol.1]
〜あなたの「声」が持つ力を活かしてほしい、
もっともっと〜
普段の生活の中には、「言葉を超えた言葉」が存在すると感じています。喧嘩した時に「お母さんなんて大嫌い!」と口にした娘の声が震えているのを聞いて「あぁ、大好きと思っていてくれるからこそ悲しいんだな」と理解できたときのように、それは言葉本来が持つ意味を超え、気持ちが伝わる瞬間です。
母親が子どもにむかって「大好きだよ」というときには、その言葉には、まさに言葉以上の愛が溢れている。言葉は有限なのに対し、その声は無限に思いを伝えてくれるんです。ただ子どもの名前を呼ぶだけで、母親の胸には愛おしさがあふれてきます。そして、その愛おしいという気持ちは自然と声にもあらわれます。そんな瞬間のお母さんの声音は、子どもが大人になってからもずっと、記憶に残ります。
あなたの声が持つぬくもりを、あなたの声そのものが持つ力を、もっと育児にも活かしていきませんか。
ラジオDJ、テレビ番組のナレーターという「声の仕事」から、「心理学コミュニケーター」へ
はじめまして。心理学コミュニケーターの都竹悦子です。私は、名古屋のラジオ局「ZIP-FM」で約15年、ラジオDJを務めました。そして東海テレビでは、番組スタートから13年「スタイルプラス」のナレーションを担当させていただいています。そんな「声の仕事」を長年やって感じたことの一つが「人は、言葉では嘘はつけても、声では嘘がつけない」ということ。何かの宣伝をしても、本当におすすめかどうかは、言葉ではなく声に現れますし、どんなに柔和に笑っている人でも、険は声に現れます。「声の表情」は、驚くほど「聞き手」へと伝わるのです。
声を掛け合うコミュニケーションは、SNSの影響もありどんどん少なくなっているのが実情です。家族内の会話が「グループチャット」というのも意外とよく聞く話。それに、かつてはご近所さんが子供を叱って当たり前だったのが、今や気軽に近所の子どもに声をかけ、挨拶を交わすことができない時代へと社会の在り方も変わりました。
インターネットで世界中と繋がる一方で、すぐ隣の人と声を掛け合うことが減った今だからこそ、「この先の未来、声の力で人を豊かにしたい」。そんな目標のもと志したのが心理学コミュニケーターという仕事です。家庭、職場、どんな場所、どんな人間関係でも、ほんの些細な声の掛け合いで、驚くほどうまくいくことが多いんです。
「おかえり」、「今日も暑いね」。そうやって発される声に宿るのは、情報ではありません。情報社会の中で声が担うのは、いわば潤滑油のような役割。声が伝えるのは「人と人がかかわりあうぬくもり」そのものなのです。
ママの声のぬくもりを感じる絵本の読み聞かせは、生まれてすぐの赤ちゃんからでも、おすすめ。
生後半年の6ヶ月健診や生後1年半の一歳半健診などで本をもらうことができるブックスタートという制度がありますよね。生後半年といえば、ちょうど離乳食も始まる時期。ママにとっても毎日慣れないことばかりでヘトヘト。そんな時期に「絵本を毎日毎日読む気力なんて湧かない」という声もよく聞きます。
もし、わざわざ本を開くのが大変なら、例えばスリングで抱っこやおんぶをしているときに、なんとなく覚えているお話や自作自演で物語を聞かせてあげてもいいんじゃないでしょうか。私がキッチンで夕食を作りながら、おんぶした娘に聞かせていた物語は「最初は仲が良くなかった野菜さんとお肉さんがお鍋の中でカレー王国を築き、仲良く暮らす」ハッピーエンドの物語。そう、単に自分の夕食の手順を物語風に語っただけのシンプルストーリーです。そんなことでも、ママの心臓の音も聞こえるほどの距離で、穏やかな声に包まれる安心感は、赤ちゃんにとっても大きいはず。
生後すぐから毎日絵本の読み聞かせを続けていた我が家の上の子は、絵本が大好き。5歳になった今、自分で本を読むことを楽しみ始めています。アメリカの育児法では毎日3万語を赤ちゃんに語りかけるのがいいとされていますし、一般的な言語の習得には4000時間その言葉を耳にする必要がある、という調査結果も。
絵本の読み聞かせが言葉の発達において有効なのはもちろん、自分が登場人物になりきることで「自分以外の立場に立つ」「人の心の動きを知る」という意味でも大きな学びがあると言われています。また何より、ママの声が与える安らぎは、この世界が「幸せなもの」だと子どもに思わせるだけの力を持っているのではないでしょうか。
言葉を超えた言葉。ママから子どもへ伝えたいことは、声に宿っています。
我が家の下の子は、男の子。3歳なのですが、わんぱくで活発かと思いきや、ひときわ甘えん坊。「女の子と男の子でこんなに違うのか!」と正直、毎日が驚きの連続です。どこでも走る、石を拾っては投げる、叱っても聞かない。「走っちゃダメって言ったでしょ」そんな小言を毎日繰り返すうち、ハッと気が付きました。3歳の子供に対して、言葉で命令し、言葉で説得しようとしていたことに。
特に男の子に有効なのですが、注意する時は、体に触れ、落ち着いた声音で端的なひとことで言葉を掛ける。たったそれだけのことで、子供の受け止め方は変わったようで、こちらの注意も聞き入れてくれるようになりました。
思い出します。二人の子ども、それぞれが初めてこの世に誕生した日のことを。親より長生きしてほしい。そして、この世に生まれて幸せだと思ってほしい。子どもに願ったのは、ただそれだけでした。そんな願いを込めて、初めて名前を読んだあの日。
どんなに強く叱る日でも、あの日の思いが声には宿っていると感じています。あなたの声にも「おはよう」から「おやすみ」までの全てに、子どもたちを幸せにする力が宿っていることを忘れないでください。
★ PROFILE
都竹 悦子 (つづく えつこ): ナレーター、司会者、心理学コミュニケーター
2000年、ZIP-FM ミュージックナビゲーターコンテストで準グランプリを受賞し、翌年デビュー。2015年まで14年間ミュージックナビゲーターとして活躍。落ち着いたトーンの語り口、心温まるナレーションが人気のナレーターでもある。2014年、NPO法人日本次世代育成支援協会認定心理カウンセラーに。2015年からは、心理学と自身の経験を元に「子育て」「恋愛」「コミュニケーション」をテーマ にした講演活動、執筆活動もスタート。プライベートでは、2児のママとして子育て奮闘中!
◆所属事務所:パスト・プレゼント・フューチャー
https://ppfppf.com/etsuko-tsuzuku/
◆都竹悦子オフィシャルサイト
http://etsuko-tsuzuku.com/