“ファインドミーマーク”でダウン症の子を育てる家族がつながる。想い込めたキーホルダーを名古屋から Part.2
Instagramを中心に話題を呼び、テレビや新聞でも取り上げられたダウン症の子どもを持つ家族をつなげるためのキーホルダー「ファインドミーマーク」を日本中の同じ想いを持つみなさんに届けているトリクマCLUBの山口郁江さん。前回はトリクマCLUBを立ち上げるきっかけまでを紹介しました。後編になる今回は、「ファインドミーマーク」の活動を通して見えてきたダウン症をとりまく状況、そしてトリクマCLUBの今後についてお話を伺いました。
『ダウン症の子どものお母さんが頑張っている』よりも
『山口郁江さんが頑張っている』の方がずっと嬉しい
山口さん自身、ダウン症に対する世の中の偏見に疑問を持つことも多いと語ります。
ダウン症に対する世の中の偏見で落ち込んだこともありますよ。ダウン症や、それにまつわる活動について検索すると『障がい児を売り物にしている』『ダウン症の子はかわいそう』『出生前診断しなかったの?』とか、心ない言葉や偏見を見かけることもあって。私もTwitterで『ダウン症の子どもを育てるのは全然辛くないですよ』と反論したこともあります(笑)。ダウン症とか障がいに対する世の中のイメージが変わるといいなぁと、偏見と出会うたびに感じますね。
SNSやネットの中だけじゃなくても、身近な人に『かわいそうに』って言われることもあるけど、『かわいそう』は絶対言ってほしくない言葉なんですよね。『かわいそう』って言われると、親は『すいません』という気分になってしまう。やっぱりダウン症をよそごとの感覚で見られているような気がしてしまうんです。『自分には関係ない』『ダウン症の子だから、頑張ってるな』って。別の世界の存在にされることで孤独を感じている人がたくさんいると思うんです。
多様性の時代と言われるようになっても、特に障がいはデリケートな問題として扱われることも多くて。やっぱりよくない事を言ってくる人も多い。もっと違う視点で見てほしいなって思うこともあります。例えば普段のテレビに “特別枠” じゃなく普通に出れたり。『ダウン症だから頑張っている』じゃなく、ただ『その子が頑張っている』。ダウン症しばりじゃなくて個々を見てほしい。本当は私も『ダウン症の子どものお母さんが頑張っている』よりも『山口郁江さんが頑張っている』方がずっと嬉しいですね。
私の子どもは紗楽ちゃんで、たまたまダウン症だったってだけなんです
山口さんの言う通り、私たちはダウン症や障がいに対して必要以上に気を遣ってしまう部分もあります。ではどうすればいいのか? そのあたりを率直に聞いてみると、山口さんはこう答えてくれました。
普通でいい。変にかまえてほしくない。健常の子どもを産んでいる友達にも『正直どう接していいか迷う。どうしたら嬉しい?』と聞かれたこともあります。でも、普通でいいんです。私の子どもは紗楽ちゃんで、たまたまダウン症だったってだけだし。その友達には『私の子どもに変わりはないから、私の子どもとして接してくれればいいよ』って伝えました。欲しい言葉も特になくて。紗楽ちゃんを『かわいい』って言ってもらうのも素直に嬉しい。実は紗楽という名前は、夫が女の子が生まれたらずっと付けたいと言っていた名前なんですよ。一人目は長男だったので。待望の女の子だったんですよ。
そしてさらに願うことは、障がいに興味ない人にも届くように発信していきたい。活動がいろんなメディアでも紹介されても、まだInstagramで盛り上がっているくらい。ダウン症とか障がいって興味ない人は見ないんですよ。だからこうして活動がいろんなメディアに紹介されて『やっと見つけてくれた』『待ってました!』という感じです。いつか街を歩いていたら『紗楽ちゃんですか?』って言われるようになったらいいな。
産まれたばかりの赤ちゃんとママたちに届けたい、
そして中学生や高校生に「想い」を伝える活動も始めていきます
急速に認知度が上がっているファインドミーマーク。トリクマCLUBを一般社団法人化することでさらに活動を広げたいと山口さんは言います。
産まれたばかりの人にファインドミーマークをすぐ届けたいという気持ちが強いですね。私もそうでしたが、出産直後の方がこのキーホルダーを一番欲していると思うんです。そうした方へすぐ届けるためには、例えば病院の先生が「コレよかったらどうぞ」と渡してくれたり、保健師さんがぱっと渡してくれたら…。本当にこのキーホルダーを欲しいと思った方や必要としている方に届けたいんです。実現するためにはいくつか壁があって。もちろん公的な協力が必要だし、そうなるとトリクマCLUBの体制も整えなくてはと思っていて。それと同時にファインドミーマークの認知度ももっと上げたいんです。例えば出産してからダウン症が分かった場合に「そういえば、ニュースで見たことある」と思い出してもらえたり、知っている人が周りに居ないと「何これ?」ってなってしまって終わりですから。まだ時間はかかると思います。今はコロナ禍ということもあり、一つ一つ私から発送する形式にこだわっていますが、今後はいろいろな方法を模索すると思います。
ファインドミーマークともうひとつ。ダウン症の子供はいないけどファインドミーマークを『欲しい』『つけたい』と言ってくれる方が多くいらっしゃって。でもこれはダウン症の方やダウン症の子どもを持つ家族がつながるためのマークだから。そこで『応援しているよ』『ファインドミーマークを知っている』という意味を持たせた『フレンズマーク』をつくりました。もともと、賛同金をくれる人たちに何かきちんとお返ししたいと考えていたので、缶バッチにして感謝の気持ちとともに送っています。ちなみにこの薄い茶色のクマは「ラテクマちゃん」という名前です。ちなみにこのラテクマちゃんもすぐに完成しました(笑)。
それに今までは主にInstagramで活動していましたが、もっと広く伝える活動も始めています。例えば、現在トリクマカフェというダウン症の家族のおしゃべり広場を企画していて。コロナがもう少し落ち着いてきたら昭和区の児童館で定期開催を予定しています。あと、今後は講演活動もしていきたいと思っているんです。特に中学生や高校生に直接伝えたい。思春期で大切な時期だからこそ、いつかダウン症の子と関わることもあると思うし、教育の一環として必要だと思っていて。ダウン症についてはもちろん、「何かを伝える力」や「活動を起こす力」も併せて伝えたい。私を通じて『悩んでいるのは私だけじゃないんだ』『こういう世界があるんだ』『私も何かできるかな』と少しでも思ってくれたら本当に嬉しいです。
現在、月1回発送しているファインドミーマークは無料発送第17弾を完了。2020年大晦日の活動開始から約1年間でキーホルダーの配布数は2,000個を突破したそうです。また2022年3月1日『一般社団法人トリクマCLUB』として活動の第二章をスタートさせたそうです。
山口 郁江(やまぐち いくえ)
愛知県出身、名古屋市在中。長女の紗楽ちゃんがダウン症で産まれたことから、ダウン症の子どもを持つ家族のつながりの必要性を感じ、夫の周平さんとともにトリクマCLUBを立ち上げる。“ファインドミーマーク”キーホルダーを自主制作し、全国へ無料配布する活動を行っている。