心理学コミュニケーターの都竹悦子さん[vol.3]~「叱る」より「応援」を!怒った声より、励ます声を子どもたちに届けたい~

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乳幼児健診で最も多い相談内容が、「我が子の叱り方」についてだそうです。パパ・ママたちの実に9割以上が悩みを抱えているといわれています。「叱らない育児」が人気となった一方、その成功例を耳にする機会が少ないのはなぜでしょうか。それは、単に「叱らなければいい、怒らなければいい」と誤解したまま実行したケースも多く、心のメカニズムに対する理解が伴っていなかったためといえます。今回のコラムでは、お子さんが悪いことや危ないことをしてしまったときにただ「叱る」のではなく、どのように対処するべきかを考えていきます。お子さんの叱り方、向き合い方について悩まれているパパ・ママさんはぜひ最後までお読みください!

まずはお子さんがどのタイプか知るところから

叱られた時の子どもたちの反応は様々です。育児書にあるような「こうしたときは、こう叱る」という通り一遍のしつけ方法で片付けることはできません。

子どもは親が言っていることを、こちらが思っている以上に理解しているものです。
しかし素直に「はい、もうしません。ごめんなさい。」とはなかなかいかず、怒ったり、泣いたり…様々な反応を見せるのは、子どもたちの心の中、頭の中で、悔しさ、恥ずかしさ、悲しさ、怒りなどさまざまなものが渦巻いているから。
ゆっくり、時間をかけて処理させてあげることが大切です。

子どもがうまく自分の感情を表現できていないようだ、と感じられたら、叱るときには必ず手を触れる、抱っこするなどのスキンシップを伴うと、ずっと子どもたちの心は開きやすくなるはずです。

まずは叱られた時にお子さんがどのようなリアクションを取るかを観察し、どういう叱り方なら響くのかを探っていきましょう。

エーーンと泣く子

「大好きなパパ・ママに怒られた!悲しい!」と泣いてしまう子。
これは最も自然な反応ですね。声をあげて泣き、悲しい、悔しいといった感情をストレートに表現しています。

→接し方:泣き止むまでそっとしておくか、抱っこやハグでスキンシップを取りましょう。

その場から走って逃げちゃう子

黙って聞いていたと思ったらサッとその場から立ち去ってしまう子。反省したそぶりもなし、という場合。

→接し方:感情をうまく表現できなかったりすると、逃げることで一人になり、自分の中で解決しようとしているのかもしれません。
ただ、幼いうちはなぜ今叱られているのかを完全に理解できず、自分の中の感情をも放置したままになってしまうことがあるので、逃げ出させないように手をつかむなどして、とにかく本人から感情を引き出すアプローチを。

ニヤついている子

叱られているのに反省したような顔ではなく、ニヤニヤしてしまっている子の場合はどうでしょう。
「この子、怒られているのになぜヘラヘラしているの!?」と戸惑ってしまうかもしれませんね。

→接し方:実はこの「笑い」、生物学的には自然な反応といわれています。
本来笑いとは、敵に自分を強く見せる(自分を守る)ための行動。本当は泣いたりしたいのに、自分の気持ちをごまかしていることが多いのです。
抱っこする、手をつなぐなどのアプローチで感情を引き出せたらGOOD。感情をためたままにしていると、後々ほかの子にあたってしまったりして自分の感情を処理する反応を見せるケースもあるので要注意です。

怒って物などにあたる子

叱られた時に物や壁などをたたいたり投げたり、近くにいる人をたたくなど、関係ないものに対して感情をぶつける子もいますね。

→接し方:無理やりでも抱っこするなどして、感情の起伏が収まるのを待ちましょう。

怒りを自分に向ける子

人や物に八つ当たりする子もいれば、自分の頭や膝をたたいたり、自分の手を噛むなどして怒りを自分に向けるタイプの子もいます。

→接し方:叩こうとする手を抑え、子どもの行動を邪魔することによって、親に怒りをぶつけさせましょう。
そのあとは、抱っこして感情の起伏が収まるのを待ちます。

フリーズする子

叱られても、うまくリアクションが取れないということもあります。
叱られている間だけでなく、叱られた後も黙り込んで、座ったまま動かない、部屋の隅でじっとする…など固まってしまう子がこのタイプです。

→接し方:叱られて何も感じていないわけではもちろんないはずです。
親からのアプローチ(話しかけながら手をつないでみる、抱っこする、など)によって、怒る、泣く、など何かしらの感情を表に出す行動を促しましょう。

「子どもを叱らなくてはいけない」のはどんなとき?

毎日の育児の中で、お子さんを叱るタイミングというのはどんなときでしょうか。
不注意で飲み物をこぼした、おもちゃを片付けずにいつまでも遊んでいる、公共の場所でも騒いで動き回る…。
そういえばしょっちゅう叱っているなぁ、と思うパパ・ママも多いかも知れませんね。
しかしわたしたち親は良かれと思って説いているつもりでも、実はそれ、「叱りすぎ」かもしれません。

叱るタイミングはこの3つだけで良い!

基本は

  1. 安全のため(交通ルールなど)
  2. 社会のルールのため(お店など、社会の中でのルール)
  3. 人や自分を傷つけてしまわないため

こうしたときだけ叱れば良いのです。
わざとではないのに食べ物・飲み物をこぼしてしまったのに必要以上に叱ったり、家でお手伝いをしないからと叱ったりするのは、「いい子になってほしいから」ではなく「親にとって都合のいい子になってほしいから」ではないか?と、自問する必要があります。
これを意識するだけで、叱る量は驚くほど減っていくはずですよ。

子どもを叱る時の3つのルールとは

上で紹介したようなタイミングでお子さんを叱る際は、

  1. 短い言葉で具体的に伝える。
  2. オノマトペを多用してみる。
  3. なるべく子どもの近くで伝える。

というのが3大原則です。それぞれを詳しく見ていきましょう。

短い言葉で具体的に伝える

長く時間をかけて叱っても、増えるのは親の満足感だけで、子どもの理解度は増えるわけではありません。
また、「しっかり」などの抽象的な表現を避け、具体的な言葉で短く端的に伝えたほうが、より子どもの記憶に残ります。

子どもの脳は毎日成長過程にあります。
後ろから前という順序で発達しており、思考・判断を司る前頭前野が特に発達するのは6歳から15歳ごろまで。
言葉をしゃべり始めたとはいえ、幼い子どもに「言って分かってもらう」のは、あまり望めないのです。

オノマトペを多用してみる

オノマトペとは、さまざまな状態や動きなどを音で表現した言葉のこと。
ザラザラ、シトシトなど聴覚からイメージされる情報のほうが、乳幼児には伝わりやすい表現といえます。

なるべく子どもの近くで伝える

大事なことであればあるほど、子どもの近くで手や体を触れ合った状態で伝える必要があります
公園で遊んでいる子どもに向かって遠くから「階段に気を付けてね」などと注意しても、なかなか子どもの気持ちまでは届きません。
例えば、ほほを両手で包み込みながら、目を合わせて「階段に気を付けてね」と伝えたほうが、ずっと子どもの印象に残るはずです。

ずっと叱り続けなくてはいけないわけではない!いつかは終わると胸に刻んで♪

子どもたちの成長はあっという間です。
今怒っていることは、来年にはもう怒らないで済んでいる事柄がほとんど。

「毎日ずっと同じことを叱り続けてる気がする…」と思うと辛くなりますが、成長の過程を意識するとフッと気が楽になりますよ♪

叱り方、応用編 ① ”not”をつかわない叱り方

さらによりよいコミュニケーションのためには、こんなことを意識してみてはいかがでしょうか。
もし、「床に飲み物をこぼさないで!」など、子どもの失敗でママ自身が困らないために発している言葉だとしたら、それは、あえて言わなくてもいい言葉であることも多いはず。

こぼさないで!と言われても、こぼす子はこぼしてしまいます。
こぼさないで!と言われなくても、こぼさない子はこぼさないのですから。

実は、走り出した子どもに向かって「転ばないで!」と声をかけた途端、子どもが転ぶ確率が上がる、というデータもあるのです。
これは、親からの声掛けによって、自分が転ぶ姿を頭の中でイメージしてしまうからだといわれています。

もし子どもに何かを注意したい場合、伝え方・叱り方で特に有効なのはポジティブな言い回しです。
「~しない」など、否定の言い方ではなく、肯定的な言い方で叱るという方法。

英語でいうところの「not」を使わない言い回しです。
「ポロポロこぼさないで」ではなく、「お皿の上で食べようね」などの言い方に変えればOKです。

何がダメなのかを教えるよりも、どうしたらよいのか成功例を提示してあげることはとても有効です。
つまり、失敗した自分をイメージさせるより、成功した自分をイメージするように促す、というのがコツといえるでしょう。

叱り方、応用編 ② ”肯定”と”笑い”をプラスしよう

親が子どもに向ける言葉は、注意であれ叱る言葉であれ、子どものためを思ってこそのものが大半です。
ですが、幼い子どもにはそれはなかなか伝わらないものです。だからこそ、ついイライラもするしもどかしくもなりますよね。

そんなときは、こちらが言うことを聞いてもらうことを求めるのではなく、まずは子どもの気持ちに耳を傾けましょう
まず共感し、肯定してみるところからスタートしてみてはいかがでしょうか。

例えば「飲み物を自分で運びたい」と子どもから言われた場合を見てみましょう。
最初から「こぼさないでね」と言うのではなく、「そっかぁ、自分で運びたいんだね。」とまず、その「やってみたかった気持ち」を肯定してあげましょう。

その日常的な繰り返しによって、自分の好奇心や、「やってみたい気持ち」=やる気を否定されず肯定してもらえる、という安心感が子どもの心の中に育っていくはずです。

失敗は叱らずに「応援」する!

また、こぼしてしまったときに「コラ!」はNGです。
「挑戦して失敗したら怒られた」の連続では、子どもの「やる気」が育ちませんそんなときは「一緒に残念がる」のも得策。

「こぼしちゃったねぇ。残念だったね(共感)。でも、あと少しだったね(関心)!やろうとして偉かったね!すごいよ(感心)!きっと次はできるといいね(応援)!」

と言われれば、「次は頑張るぞ!」と、子どもたちはその小さな胸にやる気をムクムクと育てていくのではないでしょうか。
この「やる気」は、大きくなった時の勉強やスポーツへの意欲へ直結します。幼いうちから、育てておきたいものですね。

我が家のエピソード

ちょうど今朝、6歳の息子が上着を着るのを嫌がりました。
家の中があたたかいので、「暑いからいやだ」というのです。

忙しい朝。
つい怒りモードになった私が「こら!外は今日、かなり寒いんだから着なさい!」と言っても完全拒否。

彼には、「自分は寒くても平気だから、着ない。」という幼いながらの意志があったのです。

そこで私も考えました。
否定ではなく、肯定から話を進めてみよう、と。

「分かる!今は部屋の中もあったかいし、暑いよね。昨日まではまだお天気も良かったから、こんな厚手のお洋服を着て外で遊ぶと、暑かったんだね。なるほど。今日は、天気予報で最高気温が4度だって!昨日よりずっとずっと寒いよ。ダウンジャケットじゃなかったらきっとブルブルブル、ガッキーーン!って凍っちゃうかもよ。」
と伝えました。
ガッキーンの時は、アニメみたいに凍り付いた、自分の中で最強の変顔をしながら。

すると、それまで怒りながら「着るの嫌だ!」と言っていた息子がケラケラ笑い、「ガッキーン(変顔)ってなるの?ほんと?」と自分も変顔をしながら上着を着てくれたのです。

戦闘モード解除!あぁ、やはり肯定って大切だなと、思いました。

否定しない。彼が自分でした判断を尊重する
こちらの意思は、命令ではなく、提案として伝えてみる。きっとこれは、子どもたちが大きくなっていっても同様に大切な対処法なのでしょうね。

「叱る」につまづいてしまったときは

とはいえなかなか冷静に叱り方をコントロールするのは難しいもの。

子どもの失敗や行動・言動に対して、イライラしてしまうこともあって当然です。
ただ、「怒り」という感情は、怒りを表現することで増幅していってしまいます。

怒れば怒るほど、もっと怒りはもっと湧いてきてしまうのです。
叱っている最中に「怒り」があれば、クールダウンの時間をおいて。
冷静でなければ、子どもには伝わりません。

自分の中でイライラや怒りがあるときは、こんな方法を試してみてください。

  1. 少し時間を置く。
    子どもに何か言う前に、2回深く呼吸を
  2. おいしいお菓子や、大好きな料理を無理やりにでも頭でイメージしてみる。
    脳は、二つの感情を同時に処理できるほど器用ではないので、おいしい味を思い出すだけで怒りは必ず和らぎます。
  3. 荒療治ですが、自分の手首の輪ゴムをパチン!とはじくのも一つの手。
    「痛み」はセロトニンを誘発し、脳の怒りを鎮めさせる働きをします。

つい感情に任せて怒ってしまうと、「あー、なんてダメなママなんだろう」と自分でも嫌になってしまうものですよね。

ケンカになるのは「あいしていますよ」が伝わっている証拠

私についても、私がどんなにダメなママかということは、うちの子どもたちに聞いてもらえればすぐにわかるはず。
「すぐ怒るし。」「家事も手抜きすること多いし。」などなど。

でも、どんなに、ダメなママなのかを、子どもたちが率直に面と向かって言えるうちはきっとOK。
親への反論やわがままは、委縮していない証拠。服従していない証拠。自己判断ができる証拠。自己肯定感がある証拠。
ちゃんと、「あいしてますよ」が伝わっている証拠です。

「子ども」としてでなく、一人の「人間」として尊重して、応援しよう

子どもには、子どもならではの意思がある。当たり前ですが、ふとそれを改めて考えさせられます。
子どもの失敗や「いうことを聞かない」といった態度は、「怒るべきもの」ではなく、「一緒に残念がり、一緒に成功を願うもの」であるということだけは、忘れてはいけませんよね。

「叱る」とはつまり、根幹において「応援する」と同じ意味を持っていると言えるのかもしれません。

子どもたちの成長はあっという間です。
みんなが笑顔で過ごすためにも、ママは子どもにとって「いちばんの応援者」であることができたら最高なのではないでしょうか。

先の見えない時代だからこそ、自分で決断し、自分の手で未来を切り開く子に育ってほしい、そんな願いを込めて。

★ PROFILE


都竹 悦子 (つづく えつこ): ナレーター、司会者、心理学コミュニケーター

2000年、ZIP-FM ミュージックナビゲーターコンテストで準グランプリを受賞し、翌年デビュー。2015年まで14年間ミュージックナビゲーターとして活躍。落ち着いたトーンの語り口、心温まるナレーションが人気のナレーターでもある。2014年、NPO法人日本次世代育成支援協会認定心理カウンセラーに。2015年からは、心理学と自身の経験を元に「子育て」「恋愛」「コミュニケーション」をテーマ にした講演活動、執筆活動もスタート。プライベートでは、2児のママとして子育て奮闘中!

◆所属事務所:パスト・プレゼント・フューチャー
https://ppfppf.com/etsuko-tsuzuku/
◆都竹悦子オフィシャルサイト
http://etsuko-tsuzuku.com/

都竹悦子さんの記事[vol.1]はこちら  都竹悦子さんの記事[vol.2]はこちら

 

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