ありのままでいい……ってことを感じてもらいたい。
そして、伝えたい。子どもにも、親御さんにも。

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 目の前の我が子、そして自分のあるがままに目を向け、どんな時でも「これでいいじゃん!」と分かってあげられるならどんなに素晴らしいことでしょう。頭で分かっていても普段の生活の中では、ついつい我が子を他の子と比べたり、自分と他の親とを比べがちです。親目線で手や口を出してしまうことも。間違い探しのような子育て……そもそも正解ってあるのでしょうか?
子どもたちの人生の主役は、子どもたち自身。人生の基盤となるその〝大切な視点〟を、木工を通じて育もうと活動をしている「くるまだち木工室」の草野さんにお話をうかがいました。

産後は〝自分にとって大切なモノ〟を教えてくれた時期

目の前には山、朝の光がたっぷりふりそそぐ豊かな自然に囲まれた岐阜県海津市で、草野さんはご主人と3人のお子さん(2男1女)と暮らしています。縁もゆかりもないこの土地に引っ越してきたのは2002年のこと。美術系大学を卒業後、木工の技能訓練校で家具作りを学び、インテリアショップで働き、結婚、第一子を出産。それから第二子が生まれ、しばらく経つまでの8年間は名古屋市で暮らしました。

出産を機に仕事を辞め、子どもと向き合うことの大変さを痛感しながらも幸せな日々を過ごしました。産院の時からの交流で、子どもたちを遊ばせる会にも参加していましたが、子どもたち中心の場が、ママ達中心の〝競い合いの場〟になっていると徐々に感じ始めます。同時に、自然環境の少ない都会での暮らしに違和感を抱いたり、東日本大震災を目の当たりにし、老朽化した家での暮らしに不安が広がったり……。環境を変えたい一心で、引っ越しを決意しました。「ホルモンバランスによる情緒の不安定さは、今思えば〝自分にとって大切なモノ〟を教えてくれたのかもしれません」と草野さん。

さぁ、待ち望んだ新しい暮らしが始まる! 無事引っ越しを終え、悠然たる景色に癒されながら、入園したての長男、そしてまだ乳飲み子だった次男のお世話と、引っ越しの後片付けに奮闘する日々。そんな最中、思いもよらない出来事が……実の兄がこの世を去ってしまったのです。突然すぎる別れ……。悲しみをこらえながら遺産整理、様々な手続きを必死で頑張りましたが、精神的にも体力的にも限界を超えてしまった草野さん。笑顔を忘れ、ストレスでついには母乳も出なくなりました。子育てにも自信がなくなり、どんどん目の前が暗くなっていきました。しかし、どんなに苦しくても、家事や子育ては休めません。日中は笑顔でいられても、夕飯の支度をしていると涙が止まらなくなることもあったそうです。

苦しい日々が続きました。しかし、ある日、子どものお迎えで保育園に行ったときのことでした。たくさんの子どもたちが屈託なく話しかけてくれました。そんな子どもたちと接している間だけ辛いことを忘れてる自分に気づきました。悲しみの果てに〝光〟が差し込んだ瞬間でした。

今を受け入れることで、これまでの経験が味方に

その後も保育園を訪れるたび、少しずつ気持ちが変わっていきました。「悲しみ・苦しみを乗り越えることに固執するのではなく、一方で喜びを積み上げていけば、いつしかそのバランスが逆転する日がくるのかも……」ふと湧いた思いにすがりつきました。兄のため、両親のため、家族のためにも、私が私の人生を楽しもうと。草野さんの心に、徐々に新しい風が吹きはじめ、「助けてくれた子どもたちに、恩返しをしていこう!」気づけば一歩も二歩も踏み出していました。

子どもたちの為に頑張っている人たちについていきたい……絵本の読み聞かせボランティアの活動に参加しはじめて数年、活動を続けていく中で「自分には何ができるだろう」と考えるようになります。様々な思いがグングン膨んでいきました。「大学でデザインを学び、木工と出会い、子どもを3人授かって、子育ても10年頑張った……ブランクこそあるけれど、これらは戦力にならないかな?」「木工作家さんのほとんどが男性な中、女性だからこそできることがあるのでは」自分のカタチを主張することよりも、誰かのために共にカタチを作り上げていく作業が好きな草野さん。子どもたちが楽しめる企画を考え、それを一から準備し、子どもたち自身に作ってもらおう!という考えに至ります。同時に、その活動のために〝今の自分に足りないもの〟 そして 〝絶対に必要なもの〟 と直面することとなりました。それが『自己肯定感』でした。

自分を見つめ直す日々

『自己肯定感』とは、自分のありのままを認め、その自分を大切に思う気持ち。「自分は大切な存在だ」と感じる心の感覚です。その土台は3〜4歳までに形成されると言われています。いつだって自分に自信がなく、自分が嫌い、自分なんて……と思い続けていた草野さん。他人から褒められてもそうは思えない、ありがとうって素直に言えない、そんな経験を繰り返してきました。自身の子育てにおいても、このことが悪循環を生み出していることを薄々ながら感じていました。たとえ、自己肯定感が低いまま育ってしまっても、今からでも高めることができることを知り、草野さんは専門的に勉強するために講習会などに参加しました。

自分のさらなる成長のため、そして未来広がる子どもたちや、子育てに奮闘する親御さんのために『自己肯定感』をテーマとした木工活動を思いつきます。親自身が自分を見つめ直し、我が子と一緒に自己肯定感を育むことができるなら、その先には豊かな人生が待っていると信じて。

手づくり〝草野さん号〟も快走

一番最初のワークショップ開催のきっかけは、お世話になった、絵本の読み聞かせボランティアのイベントへの参加でした。男の子2人を育ててることもあり、迷わず「車づくりをしよう!」と思ったそうです。ご主人がその当時、材木屋で働いていたこともあり、木材にもこだわることができたのも強みでした。

ここからが大変!300人分の準備が始まりました。木材の加工は、技能訓練校時代の仲間の工房を借りて行いました。子どものお世話もあるので、1日4時間が限界です。家族に協力してもらいながら、少しずつ、少しずつの作業が3カ月続きました。

ワークショップでは、たくさんの材料の中から好きなパーツを選んでもらうことからはじまり、自分でできる子は一人で、それが難しい子はパパやママと一緒に工作をしました。大切なのは、子どもたちが自由な発想で作ること。木と触れ合いながらの車づくりに、男の子も女の子も夢中になって取り組みました。みんなと一緒に遊ぶことも大切にしたくて、特設のコースで完成したばかりの車を走らせました。

イベントは大盛況!子どもたちが作った、世界に一つだけの車。草野さんは、〝いいところ探しの達人〟になって、子どもたちの作業工程や、作品を褒めました。「素敵な車ができましたね!」と、パパやママと一緒に喜びを共感しました。参加したみんなが楽しんでくれました。「車を走らせる子どもたちの顔が、めちゃめちゃ可愛い!!」と心から思ったと同時に、「これが私の続けていきたいこと!」と、草野さん自身から誕生したワークショップも快走しました。

無垢の木から誕生した、もう一人の自分を大切にする感覚

現在、試作を進めているのが「わたしづくり」ワークショップ。木で自分自身を作ります。マンガで言ったら〝コピーロボット(分身)〟のイメージ。「自分のトリセツ(取扱説明書)」を書き込んだら完成です。「例えば、保育園や幼稚園で、4月に子どもたちが人形づくりを体験し、卒園するまで一緒に過ごします。自分が自分の人形と遊んだり、友だちの人形と遊んだり..今日は○○ちゃんはお休みだけど〇〇ちゃん人形と一緒に過ごそうね、とか.」人形を大切にすることで、自分自身や友だちも大切にできる感覚を育んでもらいたいと願っています。

もうひとつは「0歳からでもできる」ワークショップ。木の板に子どもの手の輪郭を鉛筆でなぞって、パパやママが電動糸ノコギリで切り抜く作品です。我が子の手型が3Dに!飾って楽しめるのも魅力の一つ。親子の思い出とともに「木の手」の色合いも深まっていきます。岐阜県産の木材を使うことで、より身近な存在と感じられます。

木材への深い思いも大切にしています。自然が好きな草野さんは木材も無垢材にこだわっています。木にもストーリーがあり、子どもたちに「これは、栗の木だよ」と特徴や背景などを話すと思った以上に反応があるそうです(パパやママからも!)。幼少期から木の感触・重さ・香りに触れ、自分と自然は繋がっているんだという感覚を持ってもらえたら……との願いを込めて。

あるがままを見つけることを大切に

「私が一番求めるのは、木工を通じて、その子が〝ありのままでいい〟と感じてもらうこと。たとえば、次男が作った人形は目が赤いんです。赤く塗らないほうががいいんじゃない?って、言ってしまいがちですが、あなたが赤く塗りたいと思ったのなら、私もそれでいいと思うよ」こんなスタイルを大切にしたい草野さん。

「面白いこと考えたね、おばちゃんこんなの見たことない!あなたはそれが得意なのねっ」と、子どもたちのありのままの良さをを見つけることを大切にしています。そうすると、パパやママも自然に顔がゆるみ「やっぱり!うちの子こういうの好きなんですよ」「え?これって褒めてもらえることなんだ~」など、我が子の意外な一面に気づいてもらえたりもします。認めてもらえる嬉しさに、子どもたちの笑顔もはじけます。自分への自信は、子どもたちの未来を広げてくれることでしょう。  「私は木工が好きだから木工を通じてなんですけどね、たくさんの方がそれぞれの得意なツールを通じて『自己肯定感』を育む活動をされています。私がこの活動をしようと思った根源は、私にも自信がないから……。劣等感・罪悪感の塊のような自分を成長させたいと思ったし、子どもたちに救われたあの日のように、私も誰かの力になれたらと願っています。ワークショップの参加者さまからは、いつも力をいただきっぱなしです!」

草野さんの活動は始まったばかり。木で作られた車や人形や手型は、あるがままの自分から生まれた自分自身。これからの時間を共に過ごすことで、思い出が生まれ、時には励まされ、〝これでいいんだ〟と思える存在に……。そんな『自己肯定感』を育む草野さんの活動を、名古屋ベビータイムズは応援しています。

★ DATA

くるまだち木工室
https://kurumadachimokkou.amebaownd.com/