心理学コミュニケーターの都竹悦子さん[column,1]
~自然豊かな高山という環境での「子育て」~
自然豊かな環境で、子育てがしたい。
そんな思いもあり、長年住み慣れた名古屋を離れて、生まれ育った飛騨高山へ移り住んでから、はや5年以上が経ちます。
テレビナレーションなどのお仕事で毎週名古屋へ通いながらも、住居を高山に置いている理由は、やはりまず、飛騨高山は美しい自然環境に囲まれていること。清らかな空気、美しい山々、川や森などが子供たちにとって理想的な遊び場となります。
また、飛騨高山は伝統的な日本の町並みや風習が残る地域であり、地域社会が温かく結びついている点も、子育てにおいては魅力的。様々な伝統行事やイベント行事を通じて、地元の文化や歴史を学び、地域との交流も深まります。
小さなころから、家の中よりも外で遊んでばかりだった子供たち。
周りにある自然の材料を使った、手作りおもちゃもたくさん!木の枝を近所で見つけては、せっせと持ち帰るのはもちろん、幼稚園の園庭で秋にはどんぐり、松ぼっくりをみつけては持ち帰ってきてくれました。
休日には、それらを使って子供たちと工作です。魔法の杖に、やじろべえ、そしてモビール。木を使ったおもちゃ作りは、子供たちの創造力をかきたてますよね。
「こうやって遊ぶ」というマニュアルや、「こうしなさい」という正解が存在しない世界!正解がないから、不正解もありません。
木の枝や葉っぱ、どんぐりを使って、自分だけの工作品を作っていくなかにはヘンテコなのもたっくさんあるけど、それはそれでO.K.なのです!
子供たちはそうやって遊ぶうち、どんぐりに「いろんな形・大きさ」があることに気が付きはじめました。
飛騨で定番のどんぐりはコナラ。かさが細やかなうろこ状になっていて、本体は縦じまがうっすらと入っています。名古屋には縦縞がなくて、形も少し丸みを帯びたミズナラのどんぐりもありますね。これは、色もつややかで濃く美しいのですが、標高の高い飛騨地方ではなかなか自生していない木なので、我が家では「レアキャラ」として、一目置かれています。
かさがモチャモジャしているのはクヌギ。ただし、カシワのどんぐりも、同じくモジャモジャ。見分け方は「クヌギのモジャモジャは固めだけど、カシワのものは柔らかい」ことです。日本には、一言「どんぐり」といっても、22種類もあるのだそうですよ。
それらのどんぐりは、「どんな葉っぱの木から落ちてくるのか」を観察するうち、我が家のどんぐり博士は、木の種類博士になりました。
そのどんぐりでモビールを作るうち、「コナラのどんぐり二個は、クヌギのどんぐり一個とバランスが取れやすい」というような、「天秤」でのバランスのとり方も自分で見つけて楽しむようになっていました。
そしていまは日常の様々なことを観察する好奇心を、次の何かの〇〇博士に向けて発揮しています。
クイズです。写真の木の器には、色が違うものがありますが、何種類の木から作られていると思いますか。
実は、すべての器が、それぞれ別の種類の木から作られています。
右端で、私がコーヒーを飲んでいる、赤茶色でツヤがあるのは、サクラ。色の淡いのはブナとヒノキ。色の濃いのはホウノキ、ナラ、クルミ。一番遠くの2色の木目はクリの古木です。
特にヒノキは、針葉樹特有のあのこげ茶色の木肌のイメージから、中を見てみると眩しいほどに白い、そんなギャップが面白いですよね。しかも、この淡い色は、年月を重ねるうちにだんだんと飴色に変わっていくというから不思議です。
自然豊かな公園や森の中で、例えば子供たちといっしょに水筒にお茶をもっていって、自分の好きな木の器で、その木を眺めながら、あるいは寄りかかりながらのティータイムも、なかなかいいものかもしれません。
我が家では、離乳食の頃に飛騨の友人から「飛騨の木々で作ったスプーンと赤ちゃん用の器」をいただいて以来、子供たちに木の器をすすんで使わせています。ガラスよりも軽いし、プラスチックと同様に、「落としても割れない!」からです。
日常的な食器や、あるいは積み木などのおもちゃのように、手で木に触れることは、ストレスの発散になると言われています。
文部科学省でも、学校を「木造」にすることを推進している理由の一つは、木が子供たちのメンタルに効果的に作用するから。実際に学校においては、木で内装が施されていると壁に背中を接触させたり、床に座ったりするなどの身体を接触させる行為が増えるとの報告があることや、木製の机の方が「注意集中の困難さ」や「眠気とだるさ」を訴える子が少ないと報告されています。
また、木から放たれる独特の香りがありますが、その元はフィトンチッドと呼ばれる揮発性物質で、インフルエンザ予防なども期待できる殺菌効果もあり、さらにはリラックス効果もあるとされています。実際に心拍数や血圧、脳の前頭前野活動も安定し、身体的や精神的にストレスを感じた際に上昇するコルチゾールの濃度も下がっていくことが実証されているんだとか。木の癒し効果というのは、人体にもいい影響を与えてくれるものなんですね。
大人も、こころにゆとりを持つことは、とても大切です。
ストレス解消としてお勧めだと言われるのが「森林浴」。ただただ、自由に過ごす。
自然の中では、心が解放されるようなたくさんのアートに触れることもできます。
例えば、山間に流れる川の色。このグラデーションは、「なんという名前の色?」と尋ねられても答えられないような、絵具ではなかなか描けない美しさです。夏にはここで子供たちは川遊びができるんですから、最高の眼福かもしれません。
絵を描いたりするのもいいかと画用紙を持っていけば、スケッチブックを開いた瞬間、真っ白な紙の上で木漏れ日が、風に踊りながら模様を作ります。木々が画用紙に映す影をそのまま「下絵」代わりに、色付けをして、絵具や色鉛筆でカラフルに描いてもいいですよね。
朝顔やツユクサなどの、色とりどりの花の汁をつかったら、色付けもより楽しいかもしれません。
子供たちの遊びも、この自由の中で、気ままに広がっていきます。服が汚れても、大きな声を出しても、本を読んでも、自分の息の限界まで深呼吸をしても、笑いがこらえきれなくなるまで息を止めるゲームをしても、なんでもO.K.!ワハハと笑えば、木々のフィトンチッドが体に満ちていく時間です。
春には木の芽の息吹を探して。夏には川の清涼感を求めて。秋にはカラフルな紅葉をながめての森林浴。
ある日森林浴に行った際に、友人から勧められたのは、「はだしになること」でした。
最初は痛くて、なかなか前に進めず、一歩ずつヨロヨロと進んでいく感じだったのですが、子供たちの順応性はびっくりするほど!あっという間に土の上も、根っこの上も平気で走るまでになっていきました。
はだしって、想像以上に気持ちいいんです!
近年、問題になっている「マイクロプラスチック」。車を走らせたらタイヤがすり減りますが、この部分もマイクロプラスチック。歯磨き粉のマイクロビーズもプラスチック製なんだそうです。フリースや合成繊維の抜け毛もマイクロプラスチックですし、靴の底のすり減ったものもそう。
つまり歩けば、マイクロプラスチックを撒きながら歩いているということになりますが、はだしなら、足の皮がすり減ったところで森の微生物にとってのごちそうです。
飛騨高山は面積が 「日本一広い市」としても有名で、その大きさは東京都に匹敵しますが、なんと、そのうち90パーセント以上が森林で占められています。名古屋から車でわずか2時間とはいえ、人の数より公園の遊具より、お店よりなによりも、とにかく木が多いので、もはや「触れ合うしかない」、「触れ合わずには暮らせない」わけですが、今、子供たちの中にある好奇心は、木がはぐくむ時間に触れたからこその、子供たちの心のゆとりが源なのかもしれません。
木育という言葉どおりですね。
自然の美しさを感じるからこそ、自然の恩恵を思います。
自然の恩恵を思うからこそ、いまの子供たちが大人になった「未来」を思います。
春には新緑の木の葉や草花で冠を作り、夏には木陰で涼む冒険の時間。秋には落ち葉やどんぐりを使ったクラフトをして、冬には雪遊び。そんな日々が、子供たちの未来に、ずっとずっと続きますように。
★ PROFILE
都竹 悦子 (つづく えつこ): ナレーター、司会者、心理学コミュニケーター
2000年、ZIP-FM ミュージックナビゲーターコンテストで準グランプリを受賞し、翌年デビュー。2015年まで14年間ミュージックナビゲーターとして活躍。落ち着いたトーンの語り口、心温まるナレーションが人気のナレーターでもある。2014年、NPO法人日本次世代育成支援協会認定心理カウンセラーに。2015年からは、心理学と自身の経験を元に「子育て」「恋愛」「コミュニケーション」をテーマ にした講演活動、執筆活動もスタート。プライベートでは、2児のママとして子育て奮闘中!
◆所属事務所:パスト・プレゼント・フューチャー
https://ppfppf.com/etsuko-tsuzuku/
◆都竹悦子オフィシャルサイト
http://etsuko-tsuzuku.com/